最高裁判所第一小法廷 昭和25年(オ)159号 判決 1952年12月25日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告理由第一点について
所論(イ)(ロ)(ハ)の事実は、第一審の訴訟手続に関するものであり、しかもこれらの事実は、単に上告人が控訴状に記載しているだけで、原審においてこれを主張立証した形跡は全然存しない。従て、所論(ニ)において、原審がこれらにつき何等裁判しなかつたことは違法であると主張するけれども仮に第一審の訴訟手続において所論(イ)(ロ)(ハ)のような事実があつたとしても、原審が、かゝる事実を無視したことは何等違法ではなく、論旨は理由がない。
同第二点について
本件につき、被上告人富山弁護士会が第一審の最初の口頭弁論期日(昭和二四年五月一八日)以来引続き高井千尋を代表者として訴訟行為をなして来たことは記録に徴し明白であつて、当時右高井千尋が被上告人を代表すべき権限を有する会長であつたことは、富山弁護士会副会長作成の証明書(記録一一丁)により十分認め得るのである。論旨は右代表者の登記の有無について云々するが当時施行せられていた弁護士法(昭和八年法律五三号)によれば、弁護士会は元来その設立自体についてもこれを登記すべき規定はなかつたのであり、所論民法四六条二項も弁護士会に適用のないことは明白であるから、当時においては被上告人の代表者について登記の存しないことを理由に、第三者がその代表権を否認し得なかつたことはいうまでもない。尤もその後、弁護士法は昭和二四年法律二〇五号(同年九月一日施行)により改正せられ、改正後の弁護士法によれば弁護士会は設立の登記を必要とし、会長の氏名等は登記の後でなければ第三者に対抗できないと規定されるに至つたのであるが(同法三四条、八八条参照)、しかし民訴においてはおよそ代表者の権限が消滅してもこれを相手方に通知しなければその効力を生じないのであり(民訴五七条一項、五八条参照)、しかも本件においては被上告人がその代表者の権限消滅の事実を相手方に通知したような形跡は毫も存しないのであるから、本件において前記の如く一旦適法に被上告人の代表者となつた高井千尋は、仮にその後右代表権に消長があつたとしても、訴訟上はなんらの影響もなく、上告人において右代表権を否認する何等の利益もない。それ故原判決には所論の如き違法はなく論旨は採用に由なきものである。
同第三点について
訴状には請求の趣旨すなわち、原告が訴訟物につき如何なる範囲で如何なる内容の判決を要求するかを記載しなければならず(民訴二二四条一項、一八六条、一九九条一項参照)もし訴訟物が金銭債権であれば必ずその金額を一定してこれが範囲を明確にすることを要するのであつて、このことは、それが給付の訴であると確認の訴であるとにより毫も差異はないのである。ところで本件上告人の訴は不法行為を原因とする損害賠償債権存在の確認を求めるものであり、その訴訟物が金銭債権であることは記録上明白である。
しかるに、上告人は本件訴状に右債権の金額を記載せず、その後も遂に訴訟物たる債権の一定金額を表示する措置を採らなかつたのであるから右訴は不適法として却下するの外はなく、これと同趣旨に出でた原判決は正当である。所論は以上と異なる独自の見解に基づき原判決を非難するにすぎず、論旨は理由なきものである。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 岩松三郎)